管理人【K】の言葉

やりたい仕事が分からないとき、理想の一日の形から探す

ログインしてブックマーク

面談で『五年後、どうなっていたいですか』と聞かれた。

会議室の白い壁を見た。管理職、専門職、独立。面談らしい言葉を探したが、どれも自分の口から出てこなかった。

『まだ、やりたい仕事が見つかっていなくて』

笑って答えると、担当者は『好きなことを掘ってみるといいよ』と言った。

好きなことさえ分からないから困っている。帰りのエレベーターで、自分だけ人生の欄が空白に見えた。

夢の代わりに思い出した水曜日

やりたい仕事は浮かばなかったが、二度と繰り返したくない一日はすぐ思い出せた。

前の職場の水曜日。朝一番で予定が変わり、準備していない会議で意見を求められた。昼食は三時。退勤直前に修正が入り、帰宅は十時を過ぎた。布団へ入ったあとも、上司からの通知が光った。

嫌だった、と書くだけなら愚痴に見える。そこで、避けたい場面の裏にある守りたい条件を一つ書いた。

『終業後に仕事の連絡を見なくてよい時間を守りたい』

予定変更の少ない職場、発言前に資料を読める会議、質問できる相手。ほかにも条件はあった。最初は一つだけにした。

嫌なことを細くすると求人の見え方が変わる

『忙しい仕事は嫌』では、多くの求人が候補から消えた。忙しさの何が苦しかったかを分けてみた。

締切があることより、優先順位が毎時間変わること。人と話すことより、準備なしで大勢の前へ立つこと。残業そのものより、終わる時刻が読めず、予定を何度も断ること。

条件があれば引き受けられることも見えた。繁忙期が事前に分かるなら予定を空けられる。発表資料を前日にもらえるなら、人前でも話せる。急ぎの仕事が来たとき、何を止めるか相談できるなら動ける。

すべての不便がない仕事は見つからない。それでも、自分が崩れやすい組み合わせを知ると、求人票へ尋ねたいことが生まれた。

「まあ悪くなかった」午後を拾う

強く好きだった仕事は思い出せなかった。少し楽だった場面ならあった。

一人で手順書を整えた午後。新人から『これなら分かる』と言われたとき。散らばっていた数字を表にまとめ、同僚が探す時間を減らせた日。

胸が高鳴る仕事ではない。けれど、終わったあとに嫌な疲れが残らず、また頼まれても困らないと思えた。

仕事を運命の相手のように探すと、強い情熱がないものは候補から落ちる。実際の一日は、小さな作業、短い会話、休憩、帰宅後の時間でできている。

強い夢がなくても、自分が生きたい一日の形から仕事を試せる。『まあ悪くなかった』時間も、次の職場を選ぶ材料になった。

次の面談で一日の形を話す

別の会社の面談で、同じ質問をされた。

『五年後の肩書きはまだ決めていません。ただ、予定を立てて集中できて、水曜でも夜八時には自分の生活へ戻れる働き方をしたいです』

立派な将来像には聞こえなかったかもしれない。けれど今回は、空欄を隠すための笑いが出なかった。

続けて、急な依頼が入ったときの優先順位は誰が決めるか、終業後の連絡ルールはあるかを尋ねた。相手は繁忙期には残業があると答え、チャット通知を翌朝まで止める運用も説明した。

その会社が合うかは、まだ分からない。入ってみれば求人票にない苦労もある。だから最初から人生を預けず、面談、職場見学、短い試用の機会など、確かめられる範囲を使う。

五年後に何をしているかは答えられなかった。その代わり、次の水曜日をどう終えたいかは話せた。

帰宅して、夜八時に夕飯を作った。特別に好きな仕事は、まだない。それでも今日の一日は、もう繰り返したくない水曜日とは少し違っていた。


本文中の人物や出来事は、テーマを伝えるために構成したフィクションです。

ログインしてブックマーク
管理人 【K】

WORDS LEFT HERE

この記事を読んで、心に残ったこと

答えや助言でなくても大丈夫です。 あなたの言葉は確認後、こよりがそっと届けます。