管理人【K】の言葉

夫が留守だとほっとする私は、もう好きではないのだろうか

ログインしてブックマーク

「土曜、友達と出かけてくる。夕飯も食べてくるね」

夫にそう言われた瞬間、うれしいと思った。

朝から夜まで、家に一人。何をしよう。途中まで読んだ本がある。お昼は冷凍うどんで済ませて、夕方にお風呂へ入ろうか。

そこまで考えてから、自分の浮かれ方に少し驚いた。

夫は何も悪いことをしていない。家事もするし、休日には一緒に買い物へ行く。大きな喧嘩をしたわけでもない。それなのに、いないと聞いてこんなに喜ぶなんて。

もう好きではないのだろうか。

さっきまで楽しみだった土曜日が、夫婦のどこかが壊れている証拠のように思えてきた。

留守の日には、何がなくなるのだろう

土曜の昼、うどんを食べ終わって本を開いた。

時計を見ると、十四時を過ぎていた。いつもならそろそろ「買い物、何時に行く?」と聞く頃だった。今日は聞かなくて済む。もう一章、読んだ。

楽だったのは、食事が簡単なことだけだろうか。

本を途中で閉じなくて済む。テレビの音を相談しなくて済む。自分が黙っているせいで、相手が退屈していないか考えなくて済む。

普段、夫にずっと気を遣えと言われているわけではない。それでも同じ部屋にいると、相手の動きが目に入り、次に何をするかを少しずつ合わせていた。

誰かと暮らすと、自分だけで終わっていた小さな判断に、もう一人の都合が加わる。何時に食べるか、窓を開けるか、出かけるか。仲がよくても、その調整は起きる。

夫がいない日の軽さには、そうした判断を一人分に戻せた心地よさが混じっているかもしれない。

「夫がいないとうれしい」という大きな言葉を、「今日は本を読むのを誰の区切りにも合わせなくて済む」と言い直してみる。すると、喜んでいたものの輪郭が少し変わる。

夫婦なのだから、一緒に楽しめるはず

夕方、夫から昼に食べたものの写真が届いた。

おいしそうだと思った。帰ったら店の話を聞きたいとも思った。けれど、「今から帰る」と続いたら、もう少し後でもよかったのに、と感じたかもしれない。

その二つの気持ちは、自分の中で同時に起きていた。

夫に話してほしいことがある。一人の夕方も、まだ終わってほしくない。

どちらが本当の気持ちなのだろうと考えると、苦しくなる。片方だけを選んで、もう片方を嘘にしようとするからだ。人とつながっていたい気持ちと、自分のペースだけで過ごしたい気持ちは、一日の中にも並んでいる。

罪悪感の奥には、「仲のよい夫婦なら、休みの日は一緒にいるほうがうれしいはず」という思いがあるのかもしれない。

そう思っていると、一人を喜ぶたびに結婚への気持ちを試される。寂しくならなかった一日まで、冷たさとして数えてしまう。

夫婦になっても、一人でぼんやりしたい自分は残る。その時間を楽しく過ごせたからといって、これまで二人で過ごしてきた楽しさが消えるわけではない。

一方で、相手が帰ってくると思うだけで怖くなる、何をしていても責められる気がするために、留守の間だけほっとすることもある。その場合は「一人の時間が足りないだけ」で片づけられない。自分のペースを楽しんでいるのか、相手の反応から逃れられているのか。ほっとする理由には、関係の中で起きていることも映る。

同じ家にいても、別々の時間を持つ

翌週の日曜、夫が「今日はどうする?」と聞いた。

いつもなら、二人で出かける先を考えていた。その日は、昼まで続きを読みたい本があった。

「午前中は本を読みたい。お昼になったら、一緒に何か食べよう」

夫は「じゃあ僕は動画見てる」と答えた。

それだけの会話なのに、少し落ち着かなかった。同じ家にいるのに別々のことをしていて、休日を無駄にしていないだろうか。途中で夫が部屋から出てくると、何か話しかけたほうがよい気がした。

一人の時間を遮っていたものには、自分が覚えてきた夫婦の過ごし方もあったのだと思う。「二人とも家にいる」と「二人で何かをする」を、いつの間にか同じことにしていた。

別々に過ごすことを提案すれば、相手が寂しく感じる日もあるだろう。一緒にしたいことがあったなら、その願いも聞ける。どちらかが毎回合わせる形へ戻さず、今日はどこを一緒に過ごしたいのかを話す余地ができる。

ただ、ひとり時間を取ったあとに優しくなれなければ失敗、という条件までつけると、休んでいる間も夫婦のために働くことになる。本を読んで終わる午前中にも、その人が過ごした時間として意味がある。

留守の日にほっとしたら、その日のどの瞬間が楽だったかを思い出す。夕飯を考えなかったときなのか、何も話さずに座っていたときなのか、予定を誰にも合わせなかったときなのか。

そこまで見えると、「もう好きではないのか」という問いのほかに、「二人の暮らしの中で、私はどんな時間を持ちたかったのか」という問いが生まれる。

昼前、本を閉じると隣の部屋から笑い声がした。まだ声をかけず、栞を挟んだ。読みたかったところまで読めた。

そろそろお腹がすいてきた。今日は何を食べようかと、今度は自分から聞きたくなった。

本文中の人物や出来事は、テーマを伝えるために構成したフィクションです。

ログインしてブックマーク
管理人 【K】

WORDS LEFT HERE

この記事を読んで、心に残ったこと

答えや助言でなくても大丈夫です。 あなたの言葉は確認後、こよりがそっと届けます。