管理人【K】の言葉

遠距離恋愛の毎晩の通話が義務になってきたとき

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美咲は、恋人からの着信が鳴る五分前にドライヤーを止めた。髪の内側はまだ湿っていた。

午後十時半。遠距離になってから、毎晩この時間に電話している。

始めたころは、待ち遠しかった。圭の部屋から聞こえる洗濯機の音まで懐かしく、用事がなくてもつながっていたかった。最近は、帰宅が遅い日にも時計を見て風呂を急ぐ。圭の声を聞きたいのに、電話の時刻が近づくと焦る。

その夜は、話している途中で何度もあくびをかみ殺した。

「眠い?」

「大丈夫。そっちは?」

切ろうとは言えなかった。先に切りたいと思ったほうが、恋を面倒にしている気がした。

電話の向こうでも待っていた

圭にも、言えていないことがあった。

異動先でようやく夕食に誘われるようになった。でも、十時半が近づくと先に帰っていた。美咲が待っているから。帰宅して電話をかけると、美咲はいつも出てくれる。そのことがうれしかった。

ある晩、美咲が「毎日だと、ちょっときつい日がある」と言った。

圭は黙った。美咲はすぐ、「嫌になったとかじゃないよ」と付け足した。弁解が長くなるほど、自分でも隠し事をしているような気がした。

「じゃあ、いつ話すの」

圭が気にしていたのは、回数より、その先の予定だった。毎晩の電話がなくなったら、次に声を聞ける日が分からなくなる。会う日もまだ先なのに、連絡まで気分次第になるのが心細かった。

美咲は、電話を減らしたいとだけ伝えていた。圭には、減ったあとに残るものが見えていなかった。

二人とも、毎日という約束を守っていた。それぞれの夜がどう変わったかは、その約束の中で話していなかった。

回数を決める前に聞いたこと

日曜の昼、二人は通話について話した。

美咲がうれしいのは、仕事の愚痴を細かく報告する時間より、圭が駅前で変な看板を見つけたときの話だった。圭の知らない街が、少しずつ知っている街になる。

圭は、美咲の声が聞こえると落ち着くと言った。ただ、眠そうな相手を引き留めてまで一時間話したいわけではなかった。

「予定が分かってたら、ない日も待てると思う」

そう聞いて、美咲はようやく具体的に考えられた。

二人は、火曜と金曜の夜にゆっくり話す予定を入れた。ほかの日にも話したくなったら声をかけるけれど、その日の都合で断る返事もする。約束の日に難しくなったら、分かった時点で知らせて、次に話せそうな日を相談する。

まず二週間、今の仕事の予定で試すことにした。

毎晩話す二人なら、それが心地よい間は続けるのだろう。美咲たちには、十時半が合わなくなっていた。遠距離恋愛に正しい通話回数があるとは、二人とも思えなかった。

火曜の電話は、前より短かった。圭が買った妙に大きなパンの写真を見ながら笑い、美咲は髪を最後まで乾かしてから寝た。

翌日は電話がなかった。楽になったはずなのに、美咲は少し寂しかった。自分から減らそうと言ったのだから寂しがるのは勝手だ、と一瞬思った。圭も寝る前にスマートフォンを手に取り、その日は机へ戻したという。

その寂しさも、二週間後に話すことにした。どの夜が長く感じたか。予定の変更は伝わったか。話したいことを次まで抱えるのがつらくなかったか。実際に過ごして分かったことを持ち寄れば、もう一度調整できる。

通話を減らす提案に相手が寂しがることと、変更を一切認めず応答を迫ることには違いがある。出られなかった理由を何度説明しても責められる、居場所の証拠まで求められる。そんな状態なら、回数を工夫するだけで続けられる関係なのかも考えたくなる。

美咲たちも、これで遠距離の不安が消えたわけではない。会いたい夜はあるし、声だけでは足りない日もある。

ただ、電話の終わりに「もう寝るね」と言ったとき、圭は「金曜に、この続き聞かせて」と返した。

美咲は、通話を切ってから髪に触れた。今日はちゃんと乾いていた。金曜に話したいことが、一つ残っていた。

本文中の人物や出来事は、テーマを伝えるために構成したフィクションです。

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