金曜の夜十時十四分、洗濯機が止まるのを待っているとメッセージが来た。
『今日、会える?』
相手から連絡が来るのは、たいてい当日の夜だった。翌朝に友人と会う予定があっても、眠くても、『会える』と返した。断れば次がいつになるか分からない。
会えばやさしい。好きな飲み物を覚えていて、髪を切ったことにも気づく。帰り際には抱きしめてくれる。その時間だけを見れば、恋人と呼んでもおかしくなかった。
でも洗濯物を干している平日の自分を、相手が思い出すことはあるのだろうか。
会えた夜を使って寂しさを黙らせる
相手との時間は楽しかった。笑ったことも、仕事でつらい日に救われたこともある。曖昧だからすべて嘘だった、と片づけたくなかった。
その一方で、来月の予定を聞けば『まだ分からない』と言われた。誕生日の話は流され、相手の友人に会ったこともない。こちらが会いたい日に連絡すると、返事は翌日になることが多かった。
やさしくされた記憶を数えると、寂しいと言う自分が欲張りに見えた。会えるだけで十分。名前を求めなければ続く。そう言い聞かせるたび、会わない時間の自分は関係の外へ押し出された。
欲しかったのは、立派な恋人の肩書きだけではなかった。自分の予定も尋ねられ、先の時間を一緒に決められることだった。
「大切?」を土曜の午後へ変える
相手に『私のこと大切?』と聞けば、たぶん『大切だよ』と答える。その言葉で一晩は安心できても、次の金曜にはまたスマートフォンを待つと思った。
そこで、自分にとって大切にされるとは何かを小さくした。数日前に予定を決めたい。月に一度くらい昼間に会いたい。断ったときに、別の日を提案してほしい。
全部を要求書にせず、最初の一つを選んだ。
『今日は難しい。来週の土曜の午後なら会いたい』
自分が会える日時を一つ提案する。相手の心を強制せず、自分の予定や願いも存在する関係かを行動から確かめるためだった。
送ると、すぐ『会える』と書き直したくなった。返事が来ない十五分のあいだに、今夜を逃せば終わる場面を何度も想像した。
返事が教えたのは愛情の点数ではなかった
翌朝、相手から『そんな先はまだ分からない。また連絡する』と返ってきた。
拒絶されたようで胸が沈んだ。土曜に会えない事情があるのかもしれない。先の予定を決めるのが苦手な人もいる。それでも、こちらの提案へ別の日を返す言葉はなかった。
一通だけで相手の愛情を決めることはできない。けれど、二人が予定を作るとき、どちらの時間が基準になっているかは見えた。
友人との約束を守り、翌朝は予定どおり出かけた。スマートフォンが鳴るたび気になったが、昼食の店では画面を鞄へ入れた。相手を試すために無視したのではない。先に決めた自分の一日を、そのまま生きてみた。
夕方、相手から『今夜ならどう?』と来た。会いたさはあった。それでも疲れていたので、『今日は休む。また前もって決めたい』と返した。
名前を聞く前に二人の時間を見た
数週間、同じように自分の予定を伝えた。一度だけ、相手から三日前に日曜の昼を提案された。二人で公園を歩き、いつもの夜とは違う光の中で話した。
その日、相手は仕事の予定が直前まで決まらず、先の約束を避けていたと説明した。事情を知ると理解できる部分はあった。こちらは、連絡を待つために週末を空け続けるのが苦しかったと伝えた。
相手は毎週の予定を約束できないと言った。自分も、当日の連絡だけに合わせ続ける形へは戻れないと話した。二人の希望が同じになったわけではない。
関係の名前をつければ、この違いが消えるとは限らない。恋人と呼ばれても、こちらの時間が存在しなければ孤独は残る。名前がなくても、互いの提案を扱えるなら育つものはある。
金曜の夜十時、また『今日会える?』と届いた。今度はカレンダーを見てから返した。
『今夜は無理。日曜の昼なら空いてる』
相手がその時間を選ぶかは分からない。それでも、返信の中に自分の週末があった。会わない時間の自分も、もう関係の外へ置いてはいなかった。
本文中の人物や出来事は、テーマを伝えるために構成したフィクションです。
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