日曜の夜、洗い終えた皿を拭きながら、明日の満員電車を思い出した。
時計は二十時三十六分。まだ月曜は始まっていないのに、胸の奥が重い。上司の朝礼、開いた瞬間に並ぶメール、返事を急かされるチャット。
スマートフォンで『退職届 書き方』と検索した。金曜の帰りには、同僚と笑っていた。水曜には仕事へ集中していた。それなのに日曜だけは、もう辞めたいと思う。
検索画面を閉じると、今度は『甘えているだけだ』という声が始まった。
日曜の気持ちを月曜の判決にしない
辞めたい気持ちが毎日同じ強さでないから、嘘だとは限らない。日曜には翌週がまだ大きな塊で見える。五日分の通勤、会議、急な依頼を一度に想像し、体が先に重さを受け取ることがある。
金曜に少し楽なのも嘘ではない。終わりが見え、同僚との会話に救われ、やり切った感覚が残る日もある。
辞めたい自分と、まだ続けたい自分を戦わせると、その夜のうちに勝者を決めたくなる。どちらも今の仕事について持っている情報だと考え、退職届は保存せず画面を閉じた。
決断の前に、心が何に耐えられず何を守ろうとしているのかを聞く。そのために、次の一週間を少し細かく見ることにした。
月曜の昼に重さの場所を探す
ノートへ二つ書いた。
今の感情。月曜の朝を考えると、胸が詰まり、逃げたくなる。
今日選べること。昼休みに会社の外へ出て、朝から何が苦しかったか一つ書く。
自分の今の感情と、今日選べることを一つだけ言葉にする。辞めるか残るかの答えではなかった。日曜の重さを、月曜の具体的な場面まで運ぶ小さな予定だった。
月曜の昼、公園のベンチで書いた。朝礼で突然進捗を聞かれ、準備していない数字を答えるのが怖かった。通勤そのものより、始業直後に何を求められるか読めないことが苦しかった。
『仕事全部が嫌』という塊の中から、予告なしの確認という一つの場面が出てきた。
一週間の中には違う日があった
火曜、上司へ『朝礼で数字を聞く項目を前日までに共有してほしい』と頼んだ。上司はすぐには変えられないと言ったが、主要な三項目だけはチャットへ載せることになった。
水曜の朝は準備できたぶん、胸の重さが少なかった。木曜は急な顧客対応が入り、帰宅後も頭が仕事から離れなかった。金曜には同僚と昼食を取り、その一時間は悪くなかった。
一週間を見ても、仕事が好きだという答えにはならない。苦しさが日曜の想像だけだったとも言えない。変更できる場面と、職場の仕組みに深く結びついた負担が両方あった。
眠れない、食べられない、動悸や強い不安が続くなど生活や身体への影響が大きい場合は、観察だけで耐え続けず、医療機関や相談先へ現状を持っていく。安全や健康が損なわれる職場で、きれいな判断材料が揃うまで待つ必要はない。
次の日曜に調べたもの
一週間後の日曜、二十時を過ぎるとまた胸が重くなった。気持ちが分かったから消える、というものではなかった。
今回は退職届の書き方ではなく、求人票を一件開いた。始業時の進め方、急な依頼の扱い、在宅勤務の有無を見た。同時に、今の職場で配置や業務量を相談できる窓口も調べた。
辞める準備と、残る条件の確認を同じ夜に進めた。どちらかへ心を固定するためではない。選べる範囲を増やすためだった。
日曜に辞めたくなる自分は、甘えている人でも、退職を決意した人でもなかった。予測できない朝に耐えられず、終業後の生活を守りたいと知らせていた。
翌朝、会社へ向かった。先週と同じ電車だったが、鞄にはノートが入っている。今週も場面を記録し、求人の話を一人聞く予定を入れていた。
日曜の感情を裁かず、月曜の現実へ持っていく。退職届を出すかどうかは、その先で自分が選ぶことだった。
本文中の人物や出来事は、テーマを伝えるために構成したフィクションです。
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