土曜の夜、沙耶は日曜日の予定を三つ書いた。
朝の散歩。昼は作り置き。夕方に銭湯。
平日の疲れを取り、月曜日には元気な自分へ戻る計画だった。動画で見た『休日の整え方』をまねて、入浴剤と新しい保存容器も買ってある。
日曜、目が覚めたのは十一時四十分だった。カーテンを開けず、枕元のスマートフォンを見た。次に時計を見たときは、午後三時を過ぎていた。
休んだのに減点だけが増えた
散歩はもう朝ではない。作り置きに使う肉は冷蔵庫のまま。銭湯へ行くには髪を整え、着替えなければならない。
沙耶は布団の中で予定へ線を引いた。三つとも終わっていない。横になっていたのに、体は重いままだった。
『一日あったのに』
『休むこともできない』
頭の中では、できなかったことの確認が続いた。月曜日へ回復した状態を納品できない自分が、仕事を遅らせているように感じた。
沙耶は休む日にも成果を求めていた。よく眠り、体にいいものを食べ、気分を整える。その全部を終えたら、休日を正しく使ったことになる。
採点を続けている間、体は横になっていても仕事が終わらなかった。
メモに書いた二行
午後四時、母から『今日は何してる?』とメッセージが来た。『充実した休日』と返したくなり、画面を閉じた。
沙耶は予定表の下へ、自分の今の感情と、今日選べることを一つだけ書いた。
『今の感情:明日までに元気になれないのが怖い』
『今日選べること:冷凍してある味噌汁を温める』
散歩も銭湯も書き直さなかった。冷蔵庫の肉も、そのまま冷凍庫へ移した。
味噌汁が温まるまで、沙耶は台所の床へ座った。湯気の立つ椀を持っても、急に前向きにはならなかった。半分飲み、残りは流しへ置いた。
休むことは次に頑張るための仕事ではなく、今の苦しさをそのまま受け止める時間でもある。今日は回復の手応えがない。それでも、怖いと感じている自分へ新しい予定を足さず、味噌汁を温めることは選べた。
月曜日のために完成しなかった夜
夕方、部屋は暗くなった。朝から閉じていたカーテンを開ける理由もなくなり、沙耶は照明だけをつけた。
母には『今日はほとんど寝てた』と返した。母からは『そういう日もあるね』と来た。それ以上の説明はしなかった。
夜、沙耶は入浴剤を使わず、短いシャワーを浴びた。洗濯物は畳まず、月曜の服だけ椅子の背へかけた。
眠る前にも疲れは残っていた。休めば必ず元気になる、という日曜日にはならなかった。月曜の仕事量を考えると胸も重い。
沙耶は三つの予定に、失敗の印をつけなかった。空欄のままページを閉じた。散歩しなかった時間も、料理しなかった時間も、自分が確かに過ごした日曜日だった。
何もしたくない日が続き、食事や仕事まで難しくなるなら、一人で休日の使い方だけを直そうとせず、身近な人や医療・相談先へ話してよい。今夜の沙耶にできたのは、月曜日へ完璧に戻ることではなかった。
味噌汁を温めた。怖いと書いた。服を一枚出した。
それだけを持って、回復しきらないまま眠った。
本文中の人物や出来事は、テーマを伝えるために構成したフィクションです。
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