管理人【K】の言葉

友人との外食が高く感じ始めたときに会い方を選び直す

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六千円の店を予約できなかった夜

理沙から、新しくできたレストランのリンクが届いた。二人で月に一度食事をするようになって十年になる。季節のコースは六千五百円。写真には小さな皿がきれいに並び、理沙は『昇進祝いも兼ねて、来週ここにしない?』と書いていた。

千佳は予約画面まで進み、閉じた。春に働き方を変えてから収入が減り、今月は眼鏡も買い替えたばかりだった。六千五百円を払えないわけではない。払えば、月末まで友人と会う予定をもう一つ断ることになる。

『来週は予定を確認してみるね』と返したあと、財布の事情より別のことが怖くなった。以前は同じ店を面白がれたのに、今は値段を先に見ている。この差を知られたら、話の合わない人になってしまう気がした。

理沙の昇進を祝いたい気持ちはあった。自分の生活も守りたかった。その二つを同じ会話へ置く言葉が見つからず、翌日も返事を延ばした。

会う値段が友情の温度に見えてしまう

長く続いた友人とは、説明しなくても同じものを選べると思いやすい。店の価格、休日の使い方、旅行の回数。昔は似ていた感覚が少しずつ離れると、財布の差が心の距離まで広げたように見える。

高いと感じる自分を知られたくない。その恥ずかしさには、余裕のない人と思われる恐れだけがあるわけではなかった。理沙の新しい暮らしを喜べない友人に見えることや、これから誘われなくなることも怖かった。

一方で、無理に予約すれば、その夜を素直に楽しめないかもしれない。料理を味わいながら残高を計算し、理沙の注文に内心で苛立つ。祝うために会った時間へ、言えなかった負担が混ざっていく。

千佳が惜しかったのは、六千五百円の食事そのものより、理沙と近況を話せる時間だった。店を断ることと、友人を退けることを一つにまとめていたから、どちらも選べなくなっていた。

今月の条件を言葉にする

千佳は手帳に、今月、人と会うために使える金額と回数を書いた。残りは四千円、会いたい人は二人。数字にすると、理沙を軽く見ているから迷ったのではないと分かった。今の暮らしの中で、ひと晩に使える金額が変わっていた。

その夜、短いメッセージを送った。

『昇進はちゃんとお祝いしたい。今月は外食に六千五百円を出すと苦しくなるんだ。来週は昼に公園を歩いて、お茶を千五百円くらいでどうかな。あのお店は来月まで貯めてから一緒に行きたい』

送ったあと、すぐに既読がついた。返事は十分ほど来なかった。千佳は、その沈黙に関係の終わりを読み込みそうになった。

理沙から届いたのは、『そこまで考えてたの、気づかなかった』という一文だった。続けて、『実は昇進したらあの店へ行くのを楽しみにしてた。来月なら待つよ。来週はお茶にしよう』とあった。

理沙にも、店を選んだ理由があった。千佳が予算を伝えたことで、その願いが消えたわけではない。二人は、今月のお茶と来月の祝いを分けて考えられるようになった。

同じ財布を持たずに会い続ける

翌週は川沿いを歩き、駅前の喫茶店へ入った。理沙は新しい役職への期待と、部下を持つ怖さを話した。千佳も働き方を変えた理由を初めて詳しく話した。会計は一人千二百円だった。

来月、二人は約束した店へ行った。千佳はそのために別の出費を一つ見送った。毎回そうするつもりはなかった。理沙も、次の旅行の話では千佳の予算を先に聞いた。

金銭感覚の差は残った。理沙が何気なく挙げる店に、千佳が驚く日もある。千佳の提案を、理沙が物足りなく感じる日もあるだろう。違いを一度話したから、これから何でも分かり合えるわけではない。

それでも、会うための値段を友情の採点に使わずに済む日が増えた。自分が出せる金額を先に知ることは、誘いを断る準備だけではなかった。今の暮らしで友人との時間を残すための条件を、自分で選ぶことだった。

同じ財布を持っていた頃へ戻れなくても、二人が会う方法は一つではない。高い店を選ぶ夜も、川沿いを歩くだけの日も、話したい相手が目の前にいる時間として残っていく。

本文中の人物や出来事は、テーマを伝えるために構成したフィクションです。

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