管理人【K】の言葉

裏切りのあと、帰宅の連絡を待つことに疲れてしまった

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午後四時になると、律子はスマートフォンを台所へ持っていく。

夫から「これから帰る」と届くのは、たいていその頃だった。画面が光るまで、買ってきた本を開いても同じ行へ戻ってしまう。

今日は四時十二分に届いた。

ほっとして、すぐ時計を見た。駅から家までは二十分ほど。今度は玄関の音を待ち始めている自分に気づいた。

律子が夫の裏切りを知ったのは、三年前だった。話し合いの中で、外出先を出るときに連絡する約束ができた。居場所の分からない夕方を越えるために、あの短い連絡がどれほど助けになったか、律子は覚えている。

今は一緒に買い物へ行き、テレビを見て笑う。夫が説明をごまかしている様子も、このところ見ていない。

それでも、連絡を待つ間だけは、ほかのことが手につかなかった。

確かめていれば守れると思っていた

帰ってきた夫が「本、面白かった?」と聞いた。

「まだ、あまり読めてない」

待っていたからだとは言わなかった。連絡してほしいと頼んだのは自分だ。夫はそれを続けている。その約束で疲れていると言えば、勝手だと思われそうだった。

律子自身、どうしたいのか分からなかった。連絡が来なければ困る。来るまで待つのも苦しい。確認を減らして、また何かあったら、今度こそ自分のせいだと思ってしまいそうだった。

一度、知らない間に大事なことが起きていた。だから今度は見逃すまいとする。画面を見ている時間には、もう同じ目に遭いたくないという切実な願いがあった。

けれど、夫が誠実に振る舞う責任まで、律子の注意深さで果たすことはできない。見ていなかった時間があるからといって、そこで相手がついた嘘の責任が律子へ移るわけでもない。

そこを混ぜてしまうと、自分が休むことさえ危険に思えてくる。

連絡が役に立っていた時期は、確かにあった。今も必要な日があるだろう。ただ、届いた文字を読んだあと何度も時刻を計算し、次の確認を待つばかりなら、約束が今どんな働きをしているか、もう一度考える時期なのかもしれない。

律子が取り戻したかったのは、夫の帰宅までに一章を読み終える午後だった。

あのとき決めた約束の、その後

夕飯のあと、律子は本を食卓に置いた。

「帰るって連絡、助かってた。でも最近、待つのが一日の用事みたいになってる」

夫はしばらく本の表紙を見ていた。

「じゃあ、送らないほうがいい?」

そう聞かれると、胸がざわついた。

「全部なくなるのは、まだ怖い。遅くなるときに分からないままなのは困る」

口にしてみて、律子は、毎回同じ報告を受けることと、予定が変わったまま知らされないことを、一つにして考えていたと気づいた。

当時は、毎回の連絡が必要だった。今の自分が何に困るのかは、当時と少し違っている。

二人は、まず日中の短い外出について話した。出かける前に帰宅の目安を伝え、大きく遅れると分かったら、その時点で知らせる。毎回の「これから帰る」はいったん休む。夜の外出の約束は、今回は変えない。

次の日曜に、試してみてどうだったかを話すことにした。

「日曜になったら慣れてなきゃ、と思うのはつらい」

律子が付け足すと、夫は「合わなかったら、そこからまた考えよう」と言った。

約束を変える話には、相手が早く自由になりたい思いも、自分が早く普通に戻らなければという焦りも入り込む。だから、何を変え、何を残し、いつ感想を伝えるかまで話すことが、律子には必要だった。

確認を減らせた回数で、回復を採点したくはなかった。

もちろん、説明が何度も変わる、合意した連絡を隠れて避けるといったことが今もあるなら、その事実を扱う必要がある。そんな状況で、疑わない練習だけを自分に課しても、安心の根拠は増えない。約束の見直しには、相手が今どう応じているかも含まれる。

律子も、夫の返事だけで決めたわけではなかった。この数年の振る舞いを見て、いま試せそうな範囲を選んでいた。

翌週、夫が出かけたあと、律子は窓際で本を開いた。

四時を過ぎると、やはり画面へ手が伸びた。連絡がない。今日は送らない約束にしたのだった、とそこで思い出した。

怖さがすぐ消えたわけではない。本も、期待したほど読み進められなかった。けれど、気になり始めた時刻と、そのあと何を考えたかは覚えておこうと思った。日曜に話すのは、それで十分だった。

昔決めた確認がいまの暮らしを占めているなら、「まだ必要か、もう不要か」の二択を急がず、その中で今も助けになる部分と、待つ苦しさが増えた部分を具体的にたどってみる。変えるとしたらどこか。残しておきたいのは何か。その言葉があれば、約束を今の二人のものとして話し直せる。

玄関の鍵が回ったとき、律子は読んでいた文の途中にいた。

「おかえり。いま、ここまで読んだら行く」

そう答えて、一行の終わりまで目を進めた。

本文中の人物や出来事は、テーマを伝えるために構成したフィクションです。

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管理人 【K】

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伝書オカメの「こより」

こんな風に言っていたよ

静かな夜にだけ感情が追いついてくることがあり、もどかしい気持ちがわかるとのことです。正解を急がなくていいという点に、少しだけ救われたそうです。