管理人【K】の言葉

親に反対された道でつまずくと、弱音を言えなくなる

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「仕事、どうなの」

母からの電話に「順調だよ」と答えながら、机の上のメモを裏返した。明日、上司に相談したいことが三つ書いてある。

転職して半年。やりたかった仕事には就けた。けれど、思っていた以上に外回りが多く、帰宅すると夕飯を作る気力が残っていない。担当の持ち方を変えられないか、何日も考えていた。

「前の会社なら、そんなに苦労しなくて済んだのに」

まだ言われていない言葉が、電話の向こうから聞こえた気がした。

転職を話したとき、母は反対した。「せっかく続けてきたのに、もったいない」。何度も説明して、最後は自分で決めた。だから今さら疲れたとは言えなかった。

電話を切ると、明日話すつもりだった三つのうち、二つに線を引いた。親に知られるわけでもないのに、上司へ相談することまで負けに思えてきた。

順調でいることが、返事になっていた

自分で決めたのだから、自分で何とかしたい。その気持ちには、自分の暮らしを引き受けようとする真剣さがある。

ただ、親の反対を押し切った記憶が重なると、うまくやることに別の役目が加わる。「あのときの私の判断を認めてほしい」という返事を、毎日の仕事で送り続けるようになる。

疲れたと言えば、親が正しかったことになる。担当を減らしてもらえば、覚悟が足りなかったことになる。そんなふうに意味が広がって、今の困りごとを一つ話すだけで、転職そのものを撤回させられる気がする。

母の言葉が痛いのは、当たっている部分があるからかもしれない。前の職場は通勤が短く、休みも取りやすかった。今になって、そのありがたさが身にしみる。

それを認めたら、やりたい仕事へ移った喜びまで嘘になるのだろうか。

初めて自分の提案が採用された日、帰り道で少し遠回りした。うれしくて、すぐ家に着くのが惜しかった。その日も本当にあった。今日、疲れて動けないことも本当だ。

選ぶ前には、まだ経験していなかったことがある。続けてみて分かった負担も、自分が予想以上に喜ぶ仕事もある。後から知ったことを含めて考え直すと、最初とは違う答えになる場合がある。

親を説得した日の説明を、その後の自分がずっと守り続けるのは苦しい。あのときは本気で選んだ。今は、その選択の中で新しく分かったことがある。

困りごとを小さく話す

翌朝、消しかけたメモをもう一度開いた。

「この仕事に向いていないかもしれません」と書こうとして、手が止まった。相談したかったのは、そこまで大きな話だっただろうか。

外回りが続くと、提案を準備する時間が足りなくなる。帰宅後に埋め合わせている。その持ち方を相談したかった。

上司には、続いている残業と翌週の予定を見せた。すぐに担当を減らすのは難しいと言われたが、準備に使う時間を週の予定に入れ、移動が重なる日の組み方を見直すことになった。

それで続けられるかは、まだ分からない。実際に変えてみて、それでも難しければ、別の働き方も考えることになる。

一つ手当てをするたびに、人生の選び方全体へ判決を出していたら、必要な修正も遅れてしまう。「今、どこで困っているか」という大きさで話すと、使える助けが見えてくる。

親に何を話すかも、そのあとで考えられる。

日曜、母からまた電話が来た。

「仕事、慣れた?」

いつもの「順調」が出かかった。

「好きな仕事はできてる。ただ、移動が多くて疲れてる。今、担当の組み方を相談してるところ」

母は「だから、前の会社のほうがよかったのに」と言った。予想していても、胸は痛んだ。

「通勤は前のほうが楽だったね。今は、来月の働き方を考えてる」

母はすぐには話を合わせてくれなかった。もう一度、安定した職場のよさを話し始めたので、その日はそこで仕事の話を終えた。

親に弱音を話せる関係を望んでも、今の相手が受け止められるとは限らない。話すたびに責められるなら、詳しく知らせる相手はほかに探す必要がある。親へ全部伝えることまで、自立の課題に加えると、また一人で頑張ることになる。

欲しかったのは、親に勝ったと言える人生だっただろうか。それとも、やってみたかったことに触れながら、自分の暮らしを作っていく時間だっただろうか。

後者を望んでいたのなら、その途中には相談も、修正も、ときには戻る選択も入ってくる。親が喜ぶ道へ戻る日があっても、今の自分が何を大切にして選ぶかを考えることは残る。

電話のあと、母へ言い返したかった言葉がいくつも浮かんだ。「でも、あの会社だって」と続きを作りかけて、明日のメモを手元へ寄せた。

来週、変えた予定でどのくらい準備の時間が取れたか、上司と確かめる。

まだ順調とは言えない。けれど、順調なふりをするために、困っている自分を置き去りにすることは、少し減らせそうだった。

本文中の人物や出来事は、テーマを伝えるために構成したフィクションです。

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管理人 【K】

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