管理人【K】の言葉

家族の頼みをすぐ断れないとき、返事を保留して自分で選ぶ

ログインしてブックマーク

夜十時四十二分、家族のグループLINEに母から連絡が来た。

『還暦のお祝い、みんなで二泊の温泉どう? この日なら全員休めるよね』

姉はすぐに大きな丸のスタンプを送った。弟も『行ける』。父からも丸が一つ届いた。

優子は入力欄へ『私も大丈夫』と打った。送信する前に、翌週の予定を思い出した。旅行の前日まで繁忙期で、帰宅後は誰にも会わず眠りたいと思っていた。

それでも母の還暦は一度しかない。三つの丸の下で、自分だけが薄情に見えた。

返事の速さまで家族への愛にした

優子は家族の予定へ、確認せず『大丈夫』と返すことが多かった。後から仕事を調整し、難しくても何とかした。

去年の帰省では、親戚の送迎と買い出しを頼まれ、帰宅した翌日に熱を出した。楽しかった場面もある。母と台所で話し、父と昔の写真を見た。だから疲れたことを口にすると、家族との時間まで否定するように感じた。

グループLINEには姉から『優子も休めるよね?』と来た。

すぐ返さないと、母が不安になる。姉が宿を予約できない。そう考え、また『大丈夫』を打った。

優子は二度目も消し、短く送った。

『予定を確認して、明日の夜に返すね』

母からは了解のスタンプが来た。姉からは『早めにお願い』と返った。画面を伏せても胸はざわつき、何度も通知を確認した。

一晩で分けたかったこと

翌朝、優子は仕事の予定と体調を紙に書いた。二泊すべてが嫌なのか、家族に会いたくないのかを考えた。

母の祝いには行きたい。温泉で一緒に食事もしたい。難しいのは、繁忙期の翌朝から移動し、二晩ずっと同じ部屋で過ごすことだった。

一泊なら行ける。初日の昼ではなく夕食までに着き、翌朝は自分で帰る。親戚への声かけと送迎は引き受けない。

その夜、条件をそのまま送った。

『二泊は難しいけど、一泊なら参加したい。初日の夕食までに行って、翌朝に帰るね』

母から返事が来るまで二十分かかった。

『せっかく全員そろうのに残念。でも一泊で予約するね』

残念という二文字が痛かった。すぐ『やっぱり二泊する』と送りたくなった。優子は返信せず、水を飲んだ。母が残念に思うことまで、自分の条件で消すことはできない。

家族を大切にしながら、保留や条件を伝えて自分の意志で関わることができる。そう考えると、母の残念さと優子の疲れを、どちらか一方の間違いにしなくて済んだ。

一泊分の家族

旅行の日、優子は夕食の少し前に宿へ着いた。母は『みんなは昼から来てたのよ』と言った。優子は謝る代わりに、『待たせたね。還暦おめでとう』と花を渡した。

食事中、姉から翌日の観光にも残らないかと聞かれた。優子は『朝に帰るよ』と答えた。弟が話題を変え、父が写真を撮った。

夜、母と二人で湯上がりの水を飲んだ。母は『もう少しいてほしかった』と言った。優子は『私もゆっくり会いたかった。今度は旅行じゃない日にご飯へ行こう』と返した。

翌朝、駅へ向かう車の中でも申し訳なさは残った。家族全員が気持ちよく納得する境界にはならなかった。

それでも帰宅した午後、優子は洗濯機を回さず二時間眠った。母から届いた集合写真には、自分も写っている。二泊しなかったから、家族の外へ出たわけではなかった。

次の予定がグループLINEへ流れたとき、すぐ返せる日もあるだろう。迷う夜には、まず返事をする時間を伝える。

『明日の夜に返すね』

その一文は、家族を遠ざける沈黙ではない。反射で引き受けず、自分で選んだ形で家族の中へ戻るための時間だった。


本文中の人物や出来事は、テーマを伝えるために構成したフィクションです。

ログインしてブックマーク
管理人 【K】

WORDS LEFT HERE

この記事を読んで、心に残ったこと

答えや助言でなくても大丈夫です。 あなたの言葉は確認後、こよりがそっと届けます。