三度目の食事の帰りに、「付き合ってほしい」と言われた。
一緒にいて嫌なことはなかった。話をよく聞いてくれるし、前に好きだと話した料理も覚えていてくれた。次に会う店を探してくれたこともうれしかった。
それでも、その人と恋人として過ごす自分を思い浮かべると、返事が出てこなかった。
「少し考えさせてほしい」
そう答えたあと、帰りの電車で、もらった言葉を何度も思い返す。あれほどまっすぐ気持ちを伝えてくれた人に、どうすれば悲しい思いをさせずに済むのだろう。
考えているうちに、自分が付き合いたいかどうかが、遠くなっていく。
相手のよさは、いくつも挙げられる。断る理由を探そうとすると、悪いところを無理に探しているようで、それもつらい。
けれど、誰かの長所を知っていることと、その人に恋をすることは、いつも一緒には起きない。親切を受け取ってうれしかった。その気持ちは確かにある。同じ自分の中に、交際を望む気持ちはまだ見つからない。
その二つを、無理に揃えようとすると苦しくなる。
食事に応じたことまで、間違いだったように思えてくるかもしれない。期待させたのだろうか。もっと早く気づくべきだったのだろうか。
会う前には分からなかったこともある。一緒に過ごして、初めて分かる気持ちもある。もし自分から好意をほのめかす言葉を伝えていたのなら、その言葉について説明することはできる。そこから先の交際まで、埋め合わせとして引き受けようとすると、今の気持ちを隠したまま関係を始めることになる。
断り方を探すとき、「今は仕事が忙しくて」「もう少し落ち着いたら」といった言葉が浮かぶ。
実際にそれが理由なら、今の事情として伝えられる。ただ、時間ができても付き合うつもりがないと感じているなら、その説明には、相手が待ち続ける余地が残る。
傷つけたくない気持ちから選んだ言葉が、次の誘いを断る日まで、返事を先へ延ばしてしまうこともある。
たとえば、こんな伝え方が考えられる。
「気持ちを伝えてくれてありがとう。考えたけれど、お付き合いしたいという気持ちにはなれませんでした。交際のお申し出は、お断りします」
書いてみると、冷たく感じるかもしれない。もっと相手のよさを書きたくなる。自分に問題があると言い添えたくもなる。
感謝を伝える言葉はあっても、相手を褒める文章を重ねるほど、肝心の返事が見えにくくなることがある。「こんなに素敵だと思ってくれているなら、まだ可能性があるのでは」と受け取られるかもしれない。
一方で、断る理由を細かく並べれば、相手の人柄を採点するような文章にもなる。自分の気持ちと交際についての返事だけで伝わるなら、説明を増やしすぎずに終える方法もある。
それでも、相手が悲しむことはある。
言葉を尽くしても、残念だと思う気持ちまで消すことは難しい。返事が来ないかもしれないし、これまでのように話せなくなるかもしれない。相手にも、その返事を受け止める時間や、距離を取る選択がある。
「友達ではいたい」と続けたくなったときは、自分が本当にその関係を望んでいるのか、少し立ち止まって考えたい。気まずさを早くなくしたくて口にするなら、相手にもう一つ、応えてほしい願いを渡すことになる。
断ったあとに寂しくなることもあるだろう。届いていた連絡がなくなれば、日常には空白ができる。その寂しさに押されて連絡したくなったとき、自分は今、この人とどんな関係を結びたいのか。それが言葉になるまで、送信を待つという選択もある。
誰も傷つかない返事が見つからず、下書きだけが長くなっていく夜もある。
そんなとき、文章の中に「これから好きになるかもしれない」という約束を、望んでいないのに入れていないかを読み返してみる。
一緒に過ごした時間への感謝はある。交際への返事も決まった。その両方が、短い文章の中に収まることはある。
冒頭の人物や出来事は、テーマを伝えるために構成したフィクションです。
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