管理人【K】の言葉

好きな人から恋愛相談をされるとき、聞き役を続けるのがつらくなったら

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好きな人と二人で、贈り物を選んでいた。

美緒が青い箱を手に取ると、航平は「そっちがいいかな」とのぞき込んだ。肩が触れそうな距離だった。

箱の中には、小さな焼き菓子が並んでいる。来週、航平が初めて二人で会う人への手土産だった。

「美緒に頼んでよかった」

その言葉がうれしくて、美緒は別の箱も手に取った。早く決まってほしいのに、決まったら帰る時間になる。

店員が声をかけてくるまで、二つの箱を比べ続けた。

相談が増えるほど、会う理由ができた

始まりは、昼休みの何気ない話だった。

「気になっている人がいるんだけど、こういうとき何て誘う?」

航平が見せた店の写真を、美緒は一緒に見た。少し前まで、その店には自分が誘われる場面を想像していた。

「ランチなら誘いやすいんじゃない」

自分でも驚くほど、普通の声が出た。

その夜、誘えたという報告が来た。翌日には、どんな服で行けばいいか聞かれた。以前は用事があるときだけだった連絡が、毎日のように届くようになった。

美緒にしか話していないこともあると言われた。それを聞くと、胸が温かくなった。相手の近くにいる実感があった。

けれど話の終わりには、いつも別の人がいた。

よく笑う人らしい。忙しくても返事をくれるらしい。甘いものが好きらしい。美緒が知りたかった航平の好みは、その人のことを話す声から少しずつ分かった。

相談が終わると、スマートフォンは静かになった。航平が相手と会う日には、こちらへの連絡は来ない。

何も聞かなければ、今日も会話はなかったかもしれない。その寂しさを思うと、翌朝には「どうだった?」と送っていた。

応援の言葉に、自分も残ろうとしていた

手土産を選んだ帰り、航平は紙袋を持ち直して言った。

「うまくいったら、美緒のおかげだね」

美緒は笑った。駅で別れ、電車の窓に映った顔を見て、口元だけまだ笑っていることに気づいた。

うまくいってほしい気持ちがなかったわけではない。航平が落ち込むのは見たくなかったし、楽しそうに話す顔は好きだった。

でも、本当に付き合うことになったら、今のように連絡は来なくなる気がした。

失敗してほしいと思った瞬間もあった。その考えが浮かぶたび、自分が嫌になった。相手の人には何もされていない。知らない人の欠点を探したくなる自分が、いちばん見たくなかった。

家に帰り、借りたままの文庫本を鞄から出した。相談が始まる前、二人で同じ作家の話をしていた。本の感想を送り合って、好きな場面が違うことを面白がった。

最近の会話を思い返すと、美緒自身の話はほとんどなかった。

頼られ続けたら、いつかこちらを見てくれるかもしれない。そんな期待も、親切の中に少しずつ混ざっていた。

航平は、その期待を知らない。美緒が何度も「何でも聞いて」と言ったから、相談しているのかもしれなかった。

これ以上、恋を手伝うのはつらい。

そう思っても、次に話す理由が一つ減るのが怖かった。

好きだと伝えるかどうかは、まだ決まらなかった

恋愛相談を聞くのをやめたいと言えば、どうしてと聞かれるだろうか。そこで気持ちを打ち明けることになるのだろうか。

美緒は、告白するところまで考えると動けなくなった。

今すぐ関係を変えたいのか、自分にも分からなかった。ただ、デートの報告を聞き、次の誘いを一緒に考える時間を、これまでどおりには続けられなかった。

翌日、航平から「会ったあと、また相談していい?」と聞かれた。

美緒は一度うなずきかけた。断ったあとの沈黙が怖くて、口が先に動きそうになった。

「前は何でも聞いてって言ったけど、恋愛の相談を聞くのは、今ちょっとしんどい。しばらく、その話は聞かずにいたい」

言い終えてから、付け足したくなった。忙しいだけだから。気にしないで。たまになら大丈夫だから。

どれも、今の自分には約束できなかった。

航平は少し驚いた顔をした。

「そうだったんだ。気づかなくてごめん」

美緒は、詳しい理由はまだ話せないと伝えた。航平はうなずいた。その日は、そこで会話が終わった。

帰り道、美緒は何度もスマートフォンを見た。「そんなつもりで聞いていたわけじゃない」と釈明したくなった。けれど、相手の恋が進むのを聞くたびに苦しかったことまで、取り消す文章にはしたくなかった。

聞き役を降りたあとの静けさ

数日、航平から連絡は来なかった。

静かになることは予想していた。それでも、以前のやりとりを開いてしまった。相談を受けていたころのほうが、少なくとも毎日つながっていたと思った。

美緒はまだ、航平が好きだった。相談を断ったことで気持ちまで片づくなら、もっと簡単だった。

週明け、休憩室で会った。航平は手土産を渡した日のことを話さなかった。美緒も聞かなかった。知りたい気持ちはあったけれど、聞けばまた続きを求めたくなりそうだった。

借りていた文庫本を返すと、航平は「最後まで読んだ?」と尋ねた。

美緒はうなずいて、一か所だけ分からなかった場面を話した。航平は違う読み方をしていた。昼休みが終わり、話は途中で切れた。

たったそれだけだった。以前のように戻れるかも、この先気持ちを伝えるかも、決まっていない。航平の恋がどうなったのかも知らなかった。

帰りの電車では、少し寂しかった。それでも今日、自分が話した本の場面を思い返すことができた。

贈り物を選んだ日のことは、まだ痛い。青い箱を差し出した自分も、「頼んでよかった」と言われてうれしかった自分も覚えている。

あの時間を悔やむ日もあると思う。けれど、次の贈り物まで選ぶ約束は、もうしていなかった。


本文中の人物や出来事は、テーマを伝えるために構成したフィクションです。

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