友人の恋人は、記念日のたびに二人の写真を載せていた。短い言葉が添えてある。「今年も一緒に」。それを見るのが、菜月はうらやましかった。
自分たちも先週、旅行へ行った。駅前で道に迷い、閉店間際の店で夕飯を食べた。恋人の圭が、最後の一つだったコロッケを半分にしてくれた。帰るまでは、楽しかったと思っていた。
写真を選びながら「これ、載せてもいい?」と聞くと、圭は画面をのぞいて首を振った。
「自分が写ってるのは、やめてほしい」
菜月は「分かった」と答えた。でも、友人にも見せたかった写真を、自分だけのフォルダへ戻すのが寂しかった。友人の投稿をもう一度開いた。載せてくれる人と付き合っていたら、こんな気持ちにはならないのだろうか。
写真の話に重なっていたもの
「私といること、知られたくないの?」
夕飯のあと、菜月は聞いた。圭は驚いた顔をした。
「そうじゃない。自分の休みの日を、会社の人とかにも見られるのが嫌なんだ」
その返事だけでは、寂しさは消えなかった。圭が自分の写真もほとんど載せないことは知っている。友人に恋人として紹介されたこともある。それでも、画面の上で大切にされている人を見ると、自分にも同じものがほしくなる。
写真を載せたい気持ちには、楽しかった記録を残す喜びも、人に見てもらううれしさもある。菜月には、圭のほうから「この人と一緒にいる」と言ってほしい願いもあった。自分が選んだ写真を載せるだけでは、その願いは満たされなかったかもしれない。
友人の投稿で見えた愛情の形が、いつの間にか、圭にもしてほしいことになっていた。
圭が誰に何を見られたくないのかと、菜月がどんな場面で大切にされたいのか。二つの話が一枚の写真に重なっていたから、「載せる」「載せない」の返事だけで、二人の関係まで決まるように感じた。
「一緒にいてうれしいって、そっちからも言ってほしかったのかも」
言ってから、少し恥ずかしくなった。圭はすぐに気の利いた返事をしなかった。やがて「旅行は楽しかったよ。あの店、また行きたいと思ってる」と言った。
誰かに見せられる言葉にはならなかったが、菜月は、帰りの電車でもその話をしたかったのだと思い出した。
二人で写っていても、見せたい相手は違う
菜月は、顔を隠せば載せられるだろうかと考えた。けれど、圭が気にしていたのは顔だけではない。いつ、どこへ出かけたかが周囲に伝わることも含まれていた。
「顔が分からなければ大丈夫だと思ってた。場所が分かるのも嫌?」
「うん。会社の人も見てるから」
自分にとっては友人に見せる旅行の写真でも、相手にとっては職場に届く休日の情報になる。同じ投稿を、同じ範囲の人が見るつもりで話しているとは限らない。
菜月は、その日の投稿をやめた。別の写真なら承諾してくれるまで選び直すつもりだったと気づき、スマートフォンを置いた。
載せたい理由も、断られて寂しかった気持ちも、相手に伝えたい。相手が写る写真や相手の私生活を公開するには、その人も納得している必要がある。寂しさを分かってもらうことと、投稿に同意してもらうことを一度の返事で受け取ろうとすると、断る側には愛情まで証明する仕事が加わってしまう。
後日、菜月は旅行先で買った小皿だけを撮った。圭と出かけたことも、場所や日付も書かず、料理を盛った写真を載せた。それで二人の写真を見せたかった気持ちが全部収まったわけではない。フォルダを開けば、今も少し惜しい。
ただ、二人の写真を公開するかどうかは、惜しさを消すためだけには決められなかった。
相手が関係を隠しているのかと気になる事情がほかにもあるなら、その事情は別に確かめたい。親しい人へいつも友人として紹介される、二人の関係について聞くと話をそらされる。そうした出来事まで、写真が苦手な人だからと自分に言い聞かせる必要はない。何が起きているのかを具体的に聞くほうが、投稿を一つしてもらうより、確かめたかったことに近づく。
菜月の場合、聞き直したかったのは、休日の情報を出したくないという圭の気持ちと、楽しかった時間を言葉でも分かち合いたいという自分の願いだった。
次の週末、圭から店の名前が送られてきた。旅行先で入れなかった店の支店だった。「ここなら行けそう」。菜月は空いている日を返した。
そのあと、二人で撮った写真を開いた。圭の目が半分閉じていて、菜月は笑いすぎていた。「これ、変な顔だけど好き」と本人へ送った。
誰に見せたいのかを考えるうちに、まだ、この写真を一緒に見て笑っていなかったことに気づいた。
本文中の人物や出来事は、テーマを伝えるために構成したフィクションです。
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