管理人【K】の言葉

朝のSNSで人と比べて疲れるとき、自分の一日を取り戻す

ログインしてブックマーク

目覚ましを止めた指で、そのままSNSを開いた。

六時十二分。友人はもう五キロ走っていた。知らない人の台所には、焼きたてのパンと切った果物が並んでいる。同年代の人が昇進を報告し、旅先の窓から海を撮っていた。

梨花は十七人分の朝を見てから、自分の布団を見た。洗っていないマグカップ。床に落ちた靴下。始業まで一時間を切っている。

まだ足を床につけてもいないのに、今日も遅れたと思った。

他人の朝で自分の眠さを説明した

画面を開く前、梨花にあったのは喉の渇きと、もう少し眠りたい感覚だった。

投稿を見たあと、その眠さは怠けに変わった。走らない自分、朝食を作れない自分、仕事で報告できることのない自分。体の感覚へ、他人の一場面を使って次々に名前をつけた。

SNSに写った朝が嘘だとは思わない。友人は本当に走り、誰かは本当にパンを焼いたのだろう。ただ、その前夜や撮影後の時間までは見えない。

梨花は他人の見出しを十七個並べ、自分の起き抜けだけをその横へ置いた。その比べ方では、毎朝こちらが負けた。

画面を閉じても焦りは残り、急いで仕事を始めた。昼までに三つ終えたのに、朝についた『遅れている』という点数は消えなかった。

コップ一杯ぶん先に始めた

その夜、梨花は水を入れたコップを台所へ置いた。スマートフォンを捨てるつもりも、SNSをやめる宣言をするつもりもなかった。

明日の朝、画面を開く前に水を一杯飲む。決めたのはそれだけだった。

翌朝、目覚ましを止めると通知が見えた。反射で開きかけ、昨夜のコップを思い出した。台所まで歩き、水を飲んだ。

水はぬるく、特別おいしくもなかった。立ってみると、ふくらはぎが張り、窓の近くは思ったより寒かった。梨花は『今日は少し体が重い』と感じた。

そのあとSNSを開いた。友人のランニング記録も、整った朝食もあった。胸はやはりざわついた。けれど梨花の朝には、すでにぬるい水と冷たい床があった。他人の物語へ入る前に自分の感覚を受け取り、一日の始まりを自分へ返す。その順番が一つだけ変わった。

三日目はまた布団で開いた

三日目、梨花はコップを用意し忘れた。起きてすぐSNSを開き、二十分見続けた。気づいたときには、旅行の写真を見て週末の自分までむなしく感じていた。

『またできなかった』と思い、アプリを消そうとした。そこで端末を伏せ、台所へ行った。水を一杯飲んだ。

朝の最初にできなくても、その日全部が決まるわけではなかった。現在へ戻る順番は、七時三分からでも作れた。

一週間後も、梨花は起きてすぐ画面を見る日があった。水を先に飲めた日は五日だった。連続記録にはしなかった。できなかった日へ罰をつけると、朝にまた新しい採点が増えるからだ。

ある朝、水を飲みながら『今日は眠い』と声にした。走る人の朝を見たあとも、睡眠を削って追いつこうとはしなかった。始業前に食器を一つ洗い、残りは夜へ置いた。

誰かの朝より充実した一日になったわけではない。投稿するほどの出来事もない。ぬるい水を飲み、床の冷たさを知り、眠いまま仕事を始めた。

その誰にも見せない数分は、十七人の朝に採点される前から、梨花が自分で生きていた時間だった。


本文中の人物や出来事は、テーマを伝えるために構成したフィクションです。

ログインしてブックマーク
管理人 【K】

WORDS LEFT HERE

この記事を読んで、心に残ったこと

答えや助言でなくても大丈夫です。 あなたの言葉は確認後、こよりがそっと届けます。