大学時代の友人をミュートして三日目、麻衣は検索欄へ同じ名前を入れた。
友人はイラストの仕事をしている。新しい投稿には、個展の会場で花束を抱える写真があった。麻衣は拡大して、壁に並んだ絵の数を数えた。
見なければよかったと思いながら、四十七週前の投稿まで遡った。仕事がうまくいっていない日や、弱音を書いた形跡を探した。
何も見つからず、午前零時を過ぎた。自分で閉じたはずの扉を、自分で開けたことまで情けなくなった。
探していたのは相手の失敗だった
麻衣は友人を嫌いになりたいわけではない。学生時代には一緒に課題を作り、展示の搬入も手伝った。個展が決まったと聞いたときは、本当にうれしかった。
同時に、一日だけ中止になればいいとも思った。客が少なければ、置いていかれた感じが薄くなる気がした。
そんな気持ちを持つ自分が怖くて、ミュートした。ところが見えなくなると、相手がもっと遠くへ進んでいる想像が膨らんだ。確かめれば安心できると思い、名前を検索した。
安心は数秒しか続かなかった。相手の成功を見つけて沈み、苦労らしい投稿を見つけても『それでも仕事にしている』と比べた。どちらを見ても、自分の点数は下がった。
スマートフォンを伏せたとき、夕方の出来事を思い出した。会社で出した企画を『今回は方向が違う』と戻されていた。
友人の個展を見たくなったのは、その一時間後だった。
検索の前に書いた一行
翌日、麻衣はアプリをホーム画面から外した。検索しようと思えば、まだできる。強く禁じると、そのことばかり考える自分も知っていた。
見に行きたくなったら、直前に何があったか一行だけ書くことにした。
最初の一行は『企画を戻されて、自分には作れるものがないと思った』だった。
次は『同僚が褒められている会議を聞いた』。その次は『日曜の夕方、誰とも話していない』。
相手の投稿が急に魅力を増す前に、自分の側で小さな傷が開いていた。相手を見たいという衝動の中に、認められたい、何かを作りたい、一人でいたくないという願いが混ざっていた。
麻衣は一行を書いたあと、十分のタイマーをかけた。水を飲み、戻された企画のコメントを一つだけ読み直す。それでも見たければ検索した。
三回目には、タイマーが鳴ってすぐ友人のページを開いた。ただ、過去まで遡る前に閉じられた。見た自分を責める代わりに、『今日は一投稿で閉じた』とメモした。
比較へ戻る自分を責めず、衝動と行動の間に選べる時間を作り直せる。その時間は、見ない自分を証明する試験ではなかった。
知らないまま眠った木曜日
木曜の夜、麻衣はまた検索したくなった。きっかけは、企画の修正版を書いても手応えがなかったことだった。
メモへそう書き、タイマーを始めた。十分の間に、個展をしている友人がうらやましい理由をもう一つ書いた。
『自分の名前で作ったものを、人に見せている』
麻衣が会社で作る資料には、個人の名前が出ない。絵を仕事にしたいわけではなかったが、自分の名前で何かを最後まで作りたい願いはあった。
以前途中でやめた短い文章を開き、題名だけ直した。タイマーが鳴ったとき、検索したい気持ちはまだ残っていた。けれどその日は文章をもう十分触り、相手の更新を知らないまま寝た。
次の週には、また個展の写真を見た。来場者との集合写真を見て胸が沈んだ。ミュートが無駄だったとも、一週間が振り出しへ戻ったとも考えなかった。
『今日は一人で食事をして、誰にも話を聞いてもらえなかった』
そう書き、姉へ短いメッセージを送った。
相手のページを見ない夜に、立派な出来事が起きるわけではない。書きかけの文章、姉との雑談、冷めた夕食があるだけだった。
それは写真にして比べるほどのものではない。麻衣が実際に過ごした、自分の木曜日だった。
本文中の人物や出来事は、テーマを伝えるために構成したフィクションです。
WORDS LEFT HERE
この記事を読んで、心に残ったこと
答えや助言でなくても大丈夫です。 あなたの言葉は確認後、こよりがそっと届けます。