管理人【K】の言葉

同僚の昇進がうらやましいとき、自分も評価されたかった気持ちを知る

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月曜の朝礼で、後輩の橋本が主任になると発表された。

奈緒は周りと一緒に拍手をした。橋本は驚いた顔で頭を下げ、隣の人から肩をたたかれていた。

橋本が頑張っていたことは知っている。急な欠員が出た週には勤務表を組み直し、新人の質問にもよく付き合っていた。選ばれた理由は思い当たった。

それでも奈緒は給湯室へ行き、飲み終えた紙コップを握り潰した。

祝えない自分を先に嫌った

午後、橋本から『これからも教えてください』と声をかけられた。奈緒は『おめでとう』と答えたが、自分の声が遠く聞こえた。

席へ戻ると、橋本の欠点ばかり浮かんだ。先月の集計を間違えた。大きな案件は自分のほうが多い。上司への相談がうまいだけではないか。

そんなことを考える自分が嫌になった。人の成功を喜べないのは、能力も人間性も足りない証拠に思えた。

帰宅後、奈緒はノートに『橋本が嫌い』と書いた。しばらく見てから線を引き、その下へ『私も見てほしかった』と書いた。

二つ目の言葉のほうが、胸の痛みに近かった。

他人の昇進への嫉妬を、自分も評価されたかった願いとして扱う。そうすると、橋本を小さくする話から、自分が何を欲しかったのかへ目を戻せた。

欲しかったのは名札だけか

主任になれば、月の手当が増える。会議へ呼ばれ、判断を任される。家族にも昇進したと報告できる。

奈緒が強く欲しかったのは、名札の肩書き以上に、長く続けてきた仕事を誰かが見ていたという実感だった。問題が起きる前に在庫をそろえ、引き継ぎの抜けを埋めた。何も起きなかった日は、その仕事も見えなくなった。

橋本の昇進を取り消しても、自分の願いが叶うわけではない。今度は別の人が選ばれ、そのたびに同じ痛みが戻るだろう。

奈緒は上司へ面談を申し込んだ。理由を聞いてみたい。ただ、『私のどこが駄目なんですか』と尋ねると、自分の全部を相手の採点表へ渡してしまいそうだった。

ノートに質問を一つ書いた。

『次回の候補になるために、今期、どんな行動を一つ確認できればよいですか』

面談で初めて聞いた基準

上司は、次の主任には新人二人の進行を見てほしいと話した。橋本は繁忙期に勤務表を組み直し、他の人へ頼む場面を見せていた。奈緒は自分の担当を一人で終わらせる力を評価されていたが、仕事を渡す様子がほとんど見えなかったという。

奈緒は納得した部分と、納得できない部分をノートへ分けて書いた。そんな基準があるなら募集前に知りたかった。自分が抱えてきた案件の量も、十分に見られていなかった。

一方で、困っている人を手伝うことはあっても、役割を任せて経過を見る仕事は避けてきた。遅れが出ると自分で引き取る癖もあった。

上司とは、次の三か月で新人一人の月次業務を引き継ぎ、途中の確認を二回行うことを決めた。これで昇進を約束されたわけではない。評価基準がまた変わる可能性もある。それでも、見えない順位表を想像し続ける時間は減った。

火曜日の「おめでとう」

翌日、橋本は主任として初めて朝礼を進めた。順番を一つ飛ばし、慌てて資料を戻した。奈緒の中に、昨日と同じ意地悪な安堵が少し湧いた。

その感情をきれいに消そうとはしなかった。橋本の失敗を誰かへ話すこともせず、必要なページだけ伝えた。

昼休み、橋本と二人になった。奈緒は昨日より普通の声で『昇進おめでとう。急に役割が増えて大変だと思う』と言った。心から百パーセント祝えたかは分からない。仕事上の礼を渡すには、それで足りた。

悔しさはまだ残っている。昇進できなかった事実も、面談で初めて基準を聞いた不満も消えていない。

ただ、悔しさの向きは変わった。橋本の名札を見て自分の価値を決める代わりに、任されたい仕事と、説明を求めたい評価へ向いていた。

週末、奈緒は潰した紙コップのことを思い出した。あの日の自分を立派だったとは思わない。でも、醜い人だったとも思わなくなった。

あの手の中にあったのは、誰かを引きずり下ろしたい気持ちだけではなかった。自分も報われたかった。その願いを自分のために使う仕事が、ようやく始まった。


本文中の人物や出来事は、テーマを伝えるために構成したフィクションです。

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