管理人【K】の言葉

家事や育児で自分だけ休めないとき、休みを予定として確保する

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日曜の朝、浩平は釣り竿を車へ積みながら言った。

「昼すぎには帰るよ」

美穂は、うん、と答えた。四歳の娘はまだパジャマで、洗濯機が終了音を鳴らしていた。冷蔵庫には卵が一つ。昼は何にしよう、と考えているうちに玄関が閉まった。

浩平が戻ったのは十四時四十分だった。コンビニの袋から自分用のサンドイッチを出し、今日はよく釣れたと笑った。

美穂は娘の食べ残したうどんを立ったまま食べていた。

「私も来週、出かけようかな」

浩平はすぐに答えた。

「いいじゃん。好きなときに行けば」

その言葉で、美穂は余計に腹が立った。

好きなときは予定表に載っていない

行き先は決まっていた。駅前の映画館で、観たい作品が十五時十分から上映される。問題は、家を出るまでに何を片づけるかだった。

娘の昼食。着替え。洗濯物。夕方の買い物。浩平が娘と二人で過ごせるかを確かめること。何時に帰れば夕飯へ間に合うか。

浩平は釣りの日を先に決め、あとから伝えた。美穂は家族の用事を頭の中で並べ、空いた場所に自分を入れようとしていた。

同じ三時間でも、入口が違った。

浩平の「好きなときに」は善意だったと思う。けれど名前のない休みは、娘の鼻水や買い忘れが一つあるだけで消える。実際、美穂は先月も美容院を二度延期していた。

カレンダーへ青い予定を入れた

美穂はその夜、スマートフォンの家族カレンダーを開いた。浩平の釣りは緑色で登録されている。来週の日曜、十四時から十八時までを青く塗り、「美穂・映画」と入れた。

それから浩平へ見せた。

「この時間、娘のことを任せたい。昼は食べさせてから出るけど、夕飯とお風呂はお願いしたい」

浩平は少し黙った。十八時までなら夕飯の支度は美穂がすると思っていたらしい。美穂も一瞬、帰宅してすぐ作ればいいか、と考えた。そこまで引き受けたら、映画の終盤から献立を考えることになる。

自分の休みを日時と任せる範囲まで具体的に相談する。口にしてみると、欲しかったのは映画一本分の空白だけではなかった。家の運転席から降りる時間だった。

浩平は冷凍庫を開け、娘が食べそうなものを確認した。「チャーハンなら作れる」と言った。美穂は作り方を説明しかけて、やめた。分からなければ、そのとき二人で考えるだろう。

映画のあとも洗濯物は残っていた

翌週、美穂は十三時五十分に家を出た。出る直前、洗濯物の山がソファに見えた。娘は「ママも行く」と泣いた。胸が痛み、靴を脱ぎそうになった。

浩平が娘を抱き上げた。「ポップコーン買っておいで」と言った。

映画の途中で二度、スマートフォンを見た。連絡はなかった。内容へ集中できたのは後半だけだった。それでも暗い館内で、自分のために選んだ飲み物をゆっくり飲んだ。

帰ると、チャーハンは少し焦げていた。娘はお風呂を嫌がり、まだ服を着ていた。洗濯物もソファに残っている。完璧に回ってはいなかった。家は壊れてもいなかった。

相手の自由を奪わず、自分の休みも余り時間ではなく予定として持つ。美穂はその意味を、きれいな言葉より、カレンダーに残った青い四時間で覚えた。

次の釣りの日について、浩平は木曜の夜に聞いてきた。美穂は家族カレンダーを開き、翌週には自分の美容院も入れた。

ふたりの時間が毎回きっちり同じ長さになるわけではない。少なくとも、美穂の休みだけが最後まで名前のない時間になることは減った。


本文中の人物や出来事は、テーマを伝えるために構成したフィクションです。

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