管理人【K】の言葉

任せた仕事を自分で直し続けてしまうとき

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「任せます」と送った資料を、夜になって自分で開き直していた。

後輩が作った報告書には、必要な数字も、取引先に確認した内容も入っている。けれど、説明の順番が気になる。表の位置を動かし、見出しを変え、一文ずつ整えているうちに、一時間が過ぎた。

翌朝、後輩から「修正ありがとうございます」と届いた。礼を言われるほど、また次も直すことになる気がした。仕事を渡したはずなのに、自分の締切は少しも軽くなっていない。

赤字の理由を聞かれて止まった

真帆は、部署の月次報告を後輩へ引き継いでいた。何年も担当した資料だった。見れば、先月から何が変わったかすぐ分かる。その速さを手放すのが惜しかった。

自分が直した方が早い。そう思うたびに、ファイルは手元へ戻ってきた。

ある日、後輩に尋ねられた。

「この段落を先にした理由を教えてもらえますか。次から同じようにしたいので」

真帆は画面を見た。前後を入れ替えても、伝わる内容は変わらない。自分がいつもその順番で説明していただけだった。

「私はこっちの順に慣れていて。でも、今回の並びでも読めるね」

答えながら、少し落ち着かなかった。何年も工夫してきたものが、単なる好みと言われるのは寂しい。自分の手順には、過去の失敗や、褒められた日の記憶までついている。

それでも、その記憶を知らない後輩が別の順序を選んだことに、雑さがあったとは言えなかった。

任せた先に判断する場所があるか

真帆は、前回の修正履歴を開いた。数字の転記ミスが一つあった。これは直す必要がある。説明を短くした箇所もあった。読む人が誤解しそうな文と、自分なら省く文が混じっていた。

すべてを赤字にすると、後輩には同じ重さの修正として届く。何を必ず守るのか、どこに工夫の余地があるのか、画面からは分からない。

真帆が「自由に作って」と伝えたあとで細部まで戻していたなら、後輩が毎回確認したくなるのも不思議ではなかった。選んだ結果が後から覆る仕事では、先に答えを聞く方が進めやすい。

次の報告書に取りかかる前に、二人で二十分話した。

合計値が元の記録と一致すること。増減の理由を示すこと。未確認の情報を確定したように書かないこと。この三つは、提出前に一緒に見る。見出しと表の配置は後輩が決める。途中で相談したい点が出たら、木曜の午後にまとめて話す。

後輩は「先月と同じ形でなくても通るんですね」と言った。真帆は、自分が渡していたのは作業で、判断する場所はまだ手元に残していたのだと気づいた。

もちろん、その場で渡せる判断には限りがある。社外へ出す情報や承認が必要な変更については、部署の決まりも確かめた。任せる範囲を言葉にすると、自分だけでは決められない部分も見えた。

直さなかった行が残る

木曜に届いた資料は、真帆の作るものとずいぶん違っていた。最初に結論があり、その下に小さな表が三つ並んでいた。

またカーソルが見出しへ動いた。そこで、提出前に見ると決めた三つを読み返した。数字は合っている。理由も追える。一か所だけ、確認中の話が決定事項のように見えた。

その文について、何が未確認なのかを後輩に尋ねた。後輩は担当者へ確かめ、記述を直した。見出しはそのまま残った。

会議は問題なく終わった。ただ、それで真帆がすっかり安心したわけではない。説明が少しもたついたときには口を挟みたかったし、自分ならもっと早く終わったとも思った。

会議のあと、後輩は「次はこの表をもう少し小さくします」と言った。真帆が赤字を入れる前に、次の工夫が相手から出てきた。

誰かに任せると、自分と違う出来上がりが残る。その違いを見ていられる時間も、引き継ぎには含まれるのだろう。長く担った人ほど、仕事の形が変わる寂しさもある。すぐに晴れやかな気持ちにはならない。

いま手元に、任せたのに直し続けている仕事があるなら、最近の修正を一つ見返すところから始まる。修正を求めた理由を説明できるか。その理由は、相手が取りかかる前にも共有されていたか。

真帆は次の依頼に、完成時に確認する三点と、後輩が決める箇所を書き添えた。夜にファイルを開きたくなる癖は残っている。それでも、その晩は変更履歴を増やさずに閉じた。

本文中の人物や出来事は、テーマを伝えるために構成したフィクションです。

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管理人 【K】

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