管理人【K】の言葉

触れ合いを断ってきた自分から、また近づきたくなったとき

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夕食を終えたパートナーが、床に落ちたクッションを拾った。その背中に、ふと寄りかかりたくなった。

五十二歳の春から、触れ合いを避ける日が増えていた。仕事から帰ると、人に合わせる力が残っていなかった。寝る前くらい一人でいたい。そう話してから、相手は隣に座るときも少し間を空けるようになった。

その距離に、ずいぶん助けられた。

けれど今夜は、その隙間が遠かった。

クッションを受け取るついでに手を伸ばしかけて、やめた。自分から距離を取っておいて、近づきたいときだけ近づくのは勝手だろうか。相手がようやく慣れたところを、また揺らしてしまう気がした。

「何か言った?」

そう聞かれて、「ううん」と返した。言えなかった気持ちは、消えずに隣へ座った。

前の自分と話が合わなくなる

以前、「今はあまり触れられたくない」と伝えたときは、嘘でも駆け引きでもなかった。手を握られることさえ、次に何かを求められる予告のように感じていた。

その気持ちを説明するのには勇気が要った。相手は寂しそうだったが、聞いてくれた。だからこそ、今になって違うことを言うのが難しい。

あの話は何だったのか、と思われそうだった。

人に分かってもらうために懸命に説明したことほど、自分でも守り続けなければならない約束に変わることがある。「触れ合いが苦手な人」という説明が二人の間に定着すると、気持ちが動いた日にも、その説明から出られなくなる。

でも、あの頃に距離が必要だったことと、今夜は近くに座りたいことは、どちらも本当だった。

今の気持ちを伝えるために、前の自分を大げさだったと訂正する必要はない。あのとき聞いてもらえたから、隣にいる相手を怖がらずに過ごせる日が増えたのかもしれない。気持ちが動いた理由が、自分にもまだ分からないこともある。

確かなのは、今夜、背中を見て近づきたいと思ったことだった。

ただ、その気持ちを話すなら、もう一つ怖いことがある。一度自分から触れたら、これからは以前のように応じられると思われるのではないか。明日はまた一人でいたくなったとき、今夜の自分を責めることにならないだろうか。

「また前みたいに」とは言えないけれど

週末、二人で洗濯物を畳んでいた。相手が同じ靴下を探している間に、話し始めた。

「この前、隣に寄りかかりたくなった。でも、私が距離を取ってほしいって言ったのに、急にそんなこと言われても困るかなと思って」

相手は手に持った靴下を下ろした。

「もう、触らないでほしいんだと思ってた」

「そう思うよね。あの頃は、本当にそうだった。今も一人でいたい日はある。でも、この前は近くにいたかった」

言葉にすると、少し心もとなかった。これからどうなるかを説明できず、たった一晩の気持ちだけを差し出していた。

相手はすぐには笑わなかった。

「うれしいけど、どう近づけばいいか、今は分からない」

自分が望めば、相手も喜んで元の距離へ戻る。どこかで、そんな場面を期待していた。けれど相手にも、誘うのをやめて過ごしてきた時間があった。こちらの変化を聞いたその場で、同じ気持ちになるとは限らなかった。

近づきたいと思えたことは、二人の関係が元どおりになった知らせではない。新しく話し始める理由が、一つできたということなのだと思う。

「また前みたいに、とはまだ言えない。でも、今は手をつないでみたい。そっちは、どう?」

相手は少し考えてから、「今日はまだ、隣にいるくらいが落ち着く」と答えた。

胸は小さく沈んだ。それでも、手を引き寄せようとは思わなかった。自分の気持ちを尋ねてもらって助かった時間を、今度は相手にも残したかった。

二人は洗濯物を畳み終え、その日はそれぞれの場所に座った。話したのに何も変わらなかった、と感じる瞬間もあった。ただ、黙って諦めた夜とは違い、近づきたいと思ったことを相手は知っていた。

今日の二人で決める

数日後、テレビを見ていると、相手が「今日は、こっちに座る?」と聞いた。

隣へ移ってから、「肩に寄りかかっても平気?」と尋ねた。相手がうなずいたので、ゆっくり体を預けた。

久しぶりで、最初は座る位置が決まらなかった。クッションを動かすと相手の肘に当たり、二人で少し笑った。

「今日は、こうしていたい」

そこから先のことは、約束しなかった。

触れ合いを再び望むとき、昔の頻度や親密さを一度に取り戻そうとすると、いま生まれた小さな気持ちに大きな役目を背負わせてしまう。隣に座りたいのか。手をつなぎたいのか。抱きしめたいのか。いま分かるところまで言葉にすると、相手も自分の気持ちを探して返しやすくなる。

途中で離れたくなることも、次の日には望まないこともある。そのたびに確かめる時間があって、二人の触れ合いは続いていく。再開することを良い結末と決めてしまえば、望まない日の自分も相手も、また言葉を失ってしまう。

もし近づきたい気持ちを飲み込んでいるなら、伝えるのは、これからずっとどうするかより、最近ふと触れたくなった一場面なのかもしれない。「あのとき、こうしたかった」。その先に、相手の今の返事を聞く時間を置く。

番組が終わる頃には肩が凝って、少し体を起こした。相手は何も言わず、ずれたクッションを戻した。

今夜、寄りかかれたことがうれしかった。離れて座り直したあとも、そのうれしさは残っていた。

本文中の人物や出来事は、テーマを伝えるために構成したフィクションです。

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管理人 【K】

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